人間と幸せとは何やろう?食べることを考えよう

ある仲間の経営コンサルタントが病院の差別化について、面白いことを言いました。食べることと出すことが大事だというのです。退院して口から食べられること、自分でトイレに行けること、家に帰ってそういう生活が戻ってくること、そういうリハビリをしてくれる病院が人気となる、というのです。うなづける話です。

 慢性期医療(昔で言う老人病院)の指導的立場にある医師も「これからのリハビリは歩行訓練ばかりでなく食べること、排せつのことに重点を置くべきだ」と発言しています。リハビリと言うと、病院の廊下の手すりに掴まりながら「よいしょよいしょ」と歩く訓練がイメージされますが、それだけで良いのか。退院してからの生活復帰を考えると、少し違う感がします。

一時、流行のように胃ろう造設が行われました。口から食べられなくなったら、お腹に穴を開けて、そこから「食べて」栄養を採るという次第です。本来は一時的なもので、リハビリをして口から食べられるようになったら塞ぐというものだったのですが、日本では永久に口から食べられないという患者さんが続出、非人間的だと批判されました。

生きる楽しみって何でしょう。疑いもなく食べることが筆頭の一つとなってくるでしょう。好物を美味しく食べる。これに勝るものがあるでしょうか。よく聞く話に末期を迎えた患者さんの話があります。がん治療などで入院していた患者さんが、最後の時期を迎えるに当たって自宅に戻る、一口だけビールを飲んで、食べたいと思っていたものを口にする。満足したように微笑むといった話です。

在宅マジック、という言葉を医療関係者がつぶやくことがあります。弱り切っていた入院患者さんが、自宅に帰ったら一時的にでも元気になるという現象です。自宅での生活、それが本来あるべき人間の姿ということでしょうか。高度医療も良いことだけれども、日常生活を取り戻すということが人間にとっての幸福だということです。

糖尿病の食事療法も、最近はストレスにならないよう、むしろ食事を楽しめるようにという傾向が出てきたように感じます。ある保健師は「栄養のバランスも考えなければいけないが、人とお喋りしながら楽しく食べることが健康にとって大切です」と言いました。同感です。食べること、その意味を見直してみませんか。

医療コンサルタント
(元大阪市立大学大学院特任教授)
松村眞吾

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