糖尿病の重症化が問題になっているわけ
糖尿病の重症化が問題になっているわけ 厚生労働省は生活習慣病対策を推進しようとしています。特に糖尿病のことが問題だとされます。食が豊かになり、一方でネットの隆盛が、さらに動かなくて済む生活を可能にしています。糖尿病が国民病になる素地は大きくなっていっていると言えるでしょう。
なぜ糖尿病が問題なのでしょうか。幾つかのことが挙げられます。自覚症状を感じることが少ないことが一つです。生活に不便をきたすことがない状態が長く続きます。だから食事療法や運動療法のストレス、薬を定期的に飲むストレスなどから逃避してしまう患者さんが多いというわけです。食べたいものは食べたいし、運動は邪魔くさいしとなります。
ただし糖尿病は悪化すると怖い病気です。ある日、血糖値が急に上がって、即入院などという話もよく聞きます。それだけではありません。透析が必要になってしまう場合もあります。目が見えなくなることも、足が腐って切断しなければならなくなることだってあるのです。国としては透析治療などで医療費が増加し続けている状況を何とかしたいと考えています。重症化は患者さん本人にとっても国民全体にとっても好ましいことではないのです。
最近の糖尿病関係の学術講演会は面白いです。新しい治療法など純粋に医学的な話よりも、どうやって患者さんに治療を受けてもらうかというテーマがあります。診察室で口頭指導し、食べ過ぎ、運動不足を怒っても治療に取り組む気持ちは大きくなりません。運動も街中のフィットネスクラブならやる気になっても、例えば病院の運動療法室ではやる気になりません。フィットネスクラブと料理教室を病院とは全く別にして取り組んでいる医療法人もあります。いかにストレスなく取り組んでもらうか、ということがテーマになっているのです。効き目の長い(服薬回数の少ない)薬も出てきています。
残念ながら標準治療を推進する厚労省の取組みでは十分な効果が出るとは思えません。語弊がありますが、楽しくストレスなく、重症化しない、つまり生活に無理なくできる糖尿病治療が望まれると思います。言葉を変えて言えば、フィットネスクラブで楽しく、食事は工夫しながら料理してみて、などと生活を楽しむ視点から考えてみたいかなと思う次第です。糖尿病治療全体もそういうように変わっていくのではないでしょうか。
医療コンサルタント
(元大阪市立大学大学院特任教授)
松村眞吾